2015年

3月

25日

阪本小学校のこと

卒業の時期、いろいろなことを思い出します。

 

私の母校の小学校は、中央区日本橋兜町という大都会、金融街のど真ん中に、タイムスリップしたかと思うようなレトロな雰囲気で佇む、阪本小学校という小さな学び舎でした。

明治の学制発布と共に、いわゆる「明治の一番校」として誕生し、震災や空襲を乗り越えて、今年で創立142年を迎えます。

私が通っていた頃は全学年あわせて60数名、統廃合の道に向かってしまうかと思われましたが、その後少しずつ増え続け、しっかり歴史を刻んでくれています。

一昨年、140周年記念イベントの一環として、母校で演奏の機会を頂くことができました。

友人のリコーダー奏者 相澤かずみさんと共に演奏をし、調律師の加屋野木山さんが「謎のチェンバロおじさん」役を熱演、可愛い子供たちと共にとても楽しい時間を過ごしました。

大切な母校にチェンバロ奏者として再び足を踏み入れることができたことが本当に嬉しく、忘れられない想い出となりました。

子供たちが書いてくれた感想のお手紙の分厚い束は、宝物。

いま阪本小学校ホームページでは、私たちが演奏した校歌の音源を載せて下さっています。

こんなに嬉しいことはありません。

こうやって卒業生の一人として母校に関われたこと、ただただ幸せです。

いつまでも阪本小学校が栄えますように。

またいつか、さらに歴史を重ねた母校を訪れることができますように。

 

 

2015年

3月

20日

少し明かりて...

20歳くらいまではとにかく冬が好きで、ひんやりした空気が心に気持ちよく、ちょうど今の時期のような、春に向かうか冬に戻るかどっちつかずの暖かいようなまだ寒いような、そんな生ぬるい風がとても苦手でした。

まだ冬に浸っていたいのに、私の気分におかまいなしに世の中は芽吹き花開き、なんだか無理やり引っ張りだされているような気がして、それはとても心地の悪いものでした。


それから少し年を重ねて、だんだんと春の風を楽しめるようになりました。

もともと花は大好きなので、風にのって運ばれてくる春の香りが嬉しく、自然と朗らかな気持ちになれるようになりました。

でもまだ、冬にやり残したことがあったんじゃないか、流されてなんとなく移り変わってしまっているんじゃないか、このまま暖かさに甘えていいのだろうか、、、この時期になるとそういう感覚がふと甦ることがあります。


季節が移り変わるときって、いろいろなことを思い出しますね。


2015年

3月

11日

弦にふれる

先日、新しい参加CDが発売になりました。

ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者の福沢宏さんのもとに、彼の音楽を愛する演奏家が集った《マラン・マレ ヴィオール曲集 第3巻》。

派手さはありません、どちらかというと地味かもしれない。

いえ、滋味なんです。

どこまでも優しく、あたたかく広がるガンバの音色、美しく爪弾かれるリュートの音色、そこに深い響きを加えるチェンバロの音色。

とても良い録音になっていると思います。

今日、いろいろ想うとき、この音色に包み込まれる幸せ。


どうぞ皆様、この音楽を聴いてください。

穏やかな深い吐息を味わってください。


2015年

3月

02日

鍵盤楽器の挑戦は続く

そもそも。

鍵盤楽器というのはとても制約の多い楽器です。

なにしろ、1オクターヴをなんとかして12の音に割り振って調律しなければならないから。

歌はもちろん、弦楽器や管楽器は、いくらでもその間の音を出せますよね。

でも鍵盤は動かせない。

だからアンサンブルをする時は、周りの皆さんが鍵盤楽器の音程に合わせて下さるというわけです・・・。

 

1オクターヴをいかに12音に割り振るか、というのが調律法のテーマです。

現代ピアノで使われる平均律は、12音の間隔を全て均等に調えたもの。金太郎飴みたいな。

しかし全て均等では面白くない、いろいろな間隔をつくって、和音ごとに違うカラーを出せるようにしようというのが、めくるめく調律の世界。

切るたびに金太郎の顔が違ったら、そりゃ面白いですよね。

 

古今東西、様々な調律法が編み出され、試されてきました。

この調性の曲を弾くならこの調律法が良いよね、あの時代の曲を弾くならこれ、みたいに選んだり考えたりするのです。

しかし、より美しい響き(純正)を求めていくと、格差(ひずみ)が生まれます。

つまり、綺麗に聴こえる和音を生み出すためには、どこかの音が犠牲となって美しい響きを捨てなければならない。

となると、綺麗な部分だけで弾けるならいいけれど、そうでない音が出てくる曲は弾けなくなってしまう。

 

そこで発明されたのが、この分割鍵盤です!

1オクターヴ12音を、なんと15音、16音、さらには19音まで増やして、間を埋めてしまおう!という、16~17世紀の人々の柔軟なアイデアから生まれた鍵盤。

これを使うと、例えばレ♯とミ♭、ソ♯とラ♭のような、本来鍵盤楽器上では「異名同音」であった音を「異名異音」として使い分けることができるのです。

まぁ、演奏するのはちょっとばかり難しくなりますが・・・調律の手間もだいぶ増えますが・・・でも美しい響きが格段に増えます!

 

この写真は、3月1日に行われた<分割鍵盤研究会コンサート>に集った、現代の製作家による楽器たち。

アトリエ響樹の加屋野さんから写真お借りしました。

 

左下の15分割チェンバロを、5月8日(金)のDuo Maris vol.4《Chiaro Scuro ~ 初期イタリアンバロックの試み》で演奏します。

調性や和音の動きに伴う、響きや感情表現の変化を、何よりも大切にした時代の音楽。

鍵盤楽器の「制約」を乗り越えて、追い求めます!